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【日本近代教会建築】 大曾教会堂 (五島列島) [トラベルスタディ]

大曾教会堂 (長崎県南松浦郡新上五島町/1913年頃-1916年)

大正5年8月献堂された煉瓦造、平屋、桟瓦葺の教会堂。設計、施工は鉄川与助。全体のプランは、長方形の平面。南側に多角形平面(八角形の三辺を切り取った形)のアプシス(主祭室)、北側に正方形プランの鐘塔が一基迫り出す。主空間は7ベイ(柱間)であるが、北側正面(正面玄関)から数えて5ベイ目には、東西にほぼ正方形プランの袖廊が取り付けられている。したがって、外観はラテン十字形となる。正面の塔は、第一層がポルティコ(外気にオープンな玄関間)として機能し、煉瓦を用いた半円アーチが三方を支える。単塔形式のファサードは、いわゆるロンバルディア帯風の装飾帯によって三層に水平分割されているが、ディティールをみると、実は半円形ではなく凸型の装飾である。第二層には円形窓、第三層には半円アーチのロマネスク風の開口部があり、さらにその上には八稜形の小型ドームを戴いている。ロマネスク様式の意匠を用いながら、全体としてはゴシック風の垂直上昇性が表現されており、この時点で棟梁建築家鉄川与助が西洋中世の建築様式、ロマネスクとゴシック様式を自家薬籠中のものとし、自在に操れるようになっていたことがわかる。大曾教会堂のファサードは、同じく鉄川与助の手になる田平教会堂へと引き継がれた。

田平教会堂: http://www1.odn.ne.jp/tomas/tabira.htm

 

大曾教会堂 正面玄関(北側ファサード) 鉄川与助設計・施工 1916年 

 

大曾教会堂 南東側外観 鉄川与助設計・施工 1916年

おそらく司祭の控え室兼聖具室として設計された長方形プラン空間と、そこからそびえ立つ多角形プランのアプシスとの構成が目を引く。これは黒島教会堂など長崎の初期教会堂から引き継がれたものである。ただし、黒島では半円筒形のシリンダー型アプシスであり、上五島では多角形プランが多用されている点が異なる。

黒島教会堂: http://www1.odn.ne.jp/tomas/kurosima.htm (残念ながら左記ホームページにはアプシス外観の写真がありません。三沢博昭 『大いなる遺産 長崎の教会』 智書房、2001年、8頁に図版が掲載されています。)

 

大曾教会堂 内観 鉄川与助設計・施工 1916年

木造のリブヴォールトが美しい。アーチはゴシック風の尖頭形アーチではなく、全て半円アーチ。トリフォリウムは省略されて簡素化されているが、その分、第一円柱の上に第二円柱を重ねた独特の木造オーダーが強調されている。ロマネスクとゴシックを混淆させ、独自の造形を目指した鉄川与助の意欲的な作品だと言うことができる。

 

大曾教会堂 内観 鉄川与助設計・施工 1916年

入口側に階上席があり、そこから祭壇を見下ろす。田平教会堂と外観上は似ているが、内部の立面構成は全く異なっている。

大曾教会堂: http://www1.odn.ne.jp/tomas/ooso.htm


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