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盛期ロマネスク建築-ドイツ、ライン地方の聖堂と装飾- 参考資料 [朝日カルチャーセンター]

■『ベンノー伝』の記述
これまで言及してきたように、ベンノー司教の建築的技能は、非常に熟練度の高いものであった。だとすれば、明白な根拠があるわけではないが、概して留守にしがちであったベンノー司教が、遠隔地にありながら我々の修道院聖堂を建築したとも考え得るのである。彼は決して修道院建設をあきらめず、建築監理を他の者に移管することによって、遠隔地にいることも苦にしなかったように、熱心に建築に取り組んだのである。
ベンノーは王の命令によってシュパイヤーの街に呼び寄せられ、あの最も崇高なものへと高められてはいたが、建築の巨大さ故に不用意にライン川の岸辺へと伸張していた教会を、最高度の才能と入念な整備、優れた建築的新手法によって完成した。また、河川の氾濫によって建物を転覆されないように、巨大な堤防(石造構築物)を建設したのである。
筆者による試訳。 原文は以下の通り。 Erat igitur architectoriae artis, ut iam supra meminimus, valde peritus. Quod si quis in his nostris aedificiis tantopere non apparere notaverit, sciat haec per eius absentiam maxima ex parte fuisse constructa, in quibus tanti extitit studii, ut ne expulsus quidem et longinquis regionibus morans per alios, quibus hoc iniunxerat, ab aedificando cessaverit. Unde regis imperio in Spirensem urbem adductus ecclesiam illam amplissime sublimatam et prae magnitudine operis minus caute in Rheni fluminis littus extentam maximo ingenio difficilique paratu egregii operis novitate perfecit, et immensas saxorum moles, ne fluminis illisione subverteretur, obstruxit.
■『オットー伝』の記述
しかし、皇帝はその著名にして困難なシュパイヤー大聖堂の建設工事を抱えていた。そして彼はあらゆる賢明にして巧みな建築家、建築工匠、石工、そしてその他の職人を国内から集めた。それどころか、彼は国外からもそうした技術者たちを呼び寄せたのである。そして、皇帝は毎年多量の金、銀、貨幣を消費し、その出費は莫大なものであった
その頃、偉大なる皇帝ハインリヒは、彼が帝王らしい寛大さをもって特別な敬意を寄せていた永遠の乙女マリアの栄光のために、壮大で感嘆すべきシュパイヤー大聖堂の建設を進めていた。ところが、工匠たちは神をも恐れず多量の資金を着服し、欺いて予算を使い果たしてしまった。そのため、しばしばその偉大なる建築は予算不足と相成った。それゆえ、このことに心を痛めていた皇帝は、彼の親密なる助言者であるオットーの忠言に従って、この建設事業の全指揮権を彼に委ねた。そして、オットーこそは、すでに何度も確かめられた高い学識を有する者であり、より大規模でより困難となっていた大聖堂建設の任務を遂行するのに適任者であったのである。オットーは慎重で賢明なやり方で、委ねられた任務にあたった。彼にとって、使徒の戒律に従って世界の支配者である皇帝のために尽くすことは、神に仕えるようなものとして理解されていたのである。彼はしばしば宮廷に出仕しつつ、大聖堂建設の任にあたっては、正しく資金を運用した。さらに彼は、その溢れんばかりの英知の証として、大聖堂の窓の調和に関し、熟慮の末の賢明なる処理法を皇帝に検討課題として提案した。こうしてオットーは、皇帝に対してばかりでなく、友としての諸侯に対しても変わらぬ誠実な親愛の情を示したので、彼らはオットーの知恵を神に感謝せずにはいられなかった。
■『ハインリッヒ4世伝』の記述
嗚呼、マインツの街よ、汝の大聖堂を廃墟から蘇らせるはずの、かの工匠ハインリッヒを失ってから後、汝はその誉れをも失ってしまった。自らの手で建設を始めたマインツ大聖堂を完成に導くことができるまで、彼が生きていてくれたならば、汝の大聖堂はかの名高きシュパイヤー大聖堂と肩を並べることができたであろうに。彼が礎石から驚嘆すべき建築と彫刻作品に至るまでを完成に導いたシュパイヤーの大聖堂は、古代の諸王のいかなる建設事業よりも素晴らしく、賞賛に値するものである。まだ自分の眼で見ることができないでいるものは、彼が大聖堂に献じた金や銀、その他の貴石、あるいは絹でできた宝飾品の数々を、にわかには信ずることができないであろう。

参考文献: ジョン オナイアンズ著 『建築オーダーの意味 ―古代・中世・ルネサンスの古典オーダー』 日高健一郎他訳, 中央公論美術出版, 2004年

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